馬は人類との長い歴史の中で、さまざまな目的に応じて改良されてきました。その結果、現在では世界中に200種類以上の品種が存在します。競走馬として活躍するサラブレッドや、小さくて愛らしいポニー、力強い体格を持つ重種馬など、それぞれに異なる特徴や役割があります。
本記事では、馬の品種分類や代表的な種類、日本固有の在来馬について詳しく解説します。馬の多様性を知ることで、競馬場や乗馬クラブで出会う馬たちへの理解が深まるでしょう。
馬の基本的な分類方法

日本では馬をの4つに大きく分類するのが一般的です。
「軽種」「中間種」「重種」「ポニー種」 4種類でこの分類は体格や用途、性格などの特徴に基づいています。体高(地上から肩の最も高い部分「き甲」までの高さ)や体重、骨格の特徴によって区別されます。
世界的には200以上の分類方法が存在し、国や文化、学術目的によって異なる基準が用いられています。品種改良の歴史や地域的な特性も分類に影響を与えており、同じ馬でも異なる分類に属する場合があります。
ポニー種の定義と特徴
ポニーは特定の品種名ではなく、体高147cm以下の馬の総称です。この基準を満たせば、どの品種であってもポニーと呼ばれます。体重は約200kgと小柄ですが、がっしりとした脚を持ち耐久性に優れています。
温厚で賢い性格が多く、小さな子供向けの乗用馬として活躍しています。牧場や乗馬クラブではマスコット的な存在として愛されており、初心者や小柄な女性にも扱いやすい馬です。
代表的な品種には、世界最小のファラベラ(体高約40〜78cm)や、山岳地帯で鉱石運搬に使われたフェルポニー(体高約130〜140cm)などがあります。小さな体格ながら時速40kmほどのスピードを出せる運動能力も持ち合わせています。
軽種馬の特徴と代表的な品種
軽種馬は動きが機敏でスピードに優れた馬の総称です。主に乗馬や競走馬として活躍しており、スマートな体型と長い脚が特徴です。体高は約140〜170cm、体重は400〜500kgの範囲に収まります。
サラブレッド
サラブレッドは18世紀初頭のイギリスで、アラブ馬とハンター(狩猟用イギリス在来馬)などを交配して生まれた品種です。「走る芸術品」と称される美しいフォルムを持ち、小さな頭部、長い脚、スマートな体型が特徴です。
競走馬として品種改良されたため、速く走ることに特化しています。しかし肉体的にも精神的にもデリケートで、小さな物音にも敏感に反応する臆病な性格を持ちます。細い脚は怪我をしやすく、ストレスに弱い一面もあります。
日本では明治時代初期にアメリカから初めて輸入され、その後ヨーロッパからも多数導入されました。現在は競走馬を引退したサラブレッドが、全国の乗馬クラブで乗用馬として活躍しています。
アラブ種
アラブ種はアラビア半島を起源とし、遊牧民ベドウィンによって厳格な血統管理のもと改良されました。体高は約140~150cm、体重約400kgとサラブレッドより小柄で華奢ですが、耐候性と耐久性に優れています。
速力ではサラブレッドに劣りますが、粗食や厳しい環境に耐える能力が高く、従順な性格も特徴です。1500年代以降ヨーロッパに持ち込まれ、サラブレッドやクォーターホースなど多くの品種の基礎となりました。
アングロアラブ種
アングロアラブ種は、アラブ種の強健性・従順さとサラブレッドの軽快性を兼ね備えるよう交配された品種です。アラブ種の血量が25%以上のものを指します。体高は約160cmで、サラブレッドより丈夫で粗食にも耐え、維持管理が容易とされています。
かつては「準サラ」と呼ばれていましたが、1974年の登録規定改正により、アラブ血量が25%未満のものは「サラブレッド系種」に分類されるようになりました。
その他の軽種馬
アハルテケは「黄金の馬」と呼ばれ、光沢のある毛づやと優美な体型が特徴です。トルクメニスタン原産で砂漠の過酷な環境に適応し、馬場馬術や障害飛越競技で活躍しています。
リピッツァナーは16世紀オーストリアで王室用に品種改良された馬で、体高150~160cm、芦毛が多く、忍耐強く賢い性格を持ちます。かつては世界最良の軍馬の一つとされました。
トラケナーはプロイセン王国で軍馬として作られ、スピードと持久力に優れていましたが、19世紀後半にサラブレッドにその地位を譲りました。
アンダルシアンはスペイン原産で「スパニッシュホース」とも呼ばれ、闘牛士の伝統的な乗用馬として使われました。優雅で高貴な見た目と従順な性格から、高等演技に適しています。
中間種馬の特徴と活躍
中間種は軽種と重種を掛け合わせた品種で、軽種の軽快さと重種のしっかりした体格や穏やかな性格を併せ持ちます。乗りやすい品種とされ、馬術競技、ウエスタン乗馬、馬車牽引など多様な用途で活躍しています。
日本の乗用馬のほとんどは中間種であり、馬術競技馬としても好んで用いられます。重種×サラブレッド、ポニー×重種など、掛け合わせる馬によって毛色や大きさはさまざまです。
クォーターホース
正式名称はアメリカンクォーターホースで、アメリカ原産の品種です。サラブレッドよりやや小柄ですが、がっしりとした筋肉質の体型を持ちます。
ダッシュ力があり急発進・急停車が得意で、400m(クォーターマイル=1マイルの4分の1)ではサラブレッドと互角に戦えます。この距離での速さが名前の由来となっています。ウエスタン競技に使用されるのもクォーターホースです。
セルフランセ
フランスで1965年に作られた比較的新しい品種で、アングロアラブや軍用馬として価値を失ったアングロノルマンなどを元にしています。
サラブレッドやスタンダードブレッドなど雑多な血が含まれるため、体型などの性質は個体によってばらつきが大きいです。しかし登録には優秀さが求められるため能力は高く、性格は温厚で素直、耐久性も優れています。
ハクニー
Hackney Pony Breed Guide Characteristics Health Nutrition – Mad Barn
イギリス原産で、小さな頭に大きな目、高い位置についた尻尾、たくましい体型が特徴です。脚は丈夫で馬車を引いてもスピード・持久力共に優れています。
「ハクニー歩様」と呼ばれる優雅な歩き方で有名で、馬車馬としては最上級の品種とされています。
フリージアン

「世界一のイケメン」と称される馬で、漆黒の青毛、アーチ形の長い首、彫の深い頭部、豊かでウェーブがかったたてがみと尻尾が特徴です。オランダのフリースランド州が起源で、体高平均160cmながら優雅で軽快に走ります。
体力・俊敏性・知性に優れ、人に懐きやすい性格を持ちます。なお、フリージアンは重種に分類されることもあります。
重種馬の特徴と歴史的役割
重種馬は体重800kg~1トンを超える大型の馬で、スピードはありませんが力持ちです。重い荷物や馬車の牽引、農耕馬として活躍し、人間と馬の関わりで最も古い歴史を持つとされています。
明治時代以降に海外から導入され、北海道の開拓や軍馬、農作業の労働力として重要な役割を果たしました。現在は観光資源として用いられる品種も多くあります。
ばんえい種

https://bigs.jp/travelblog/article/hokkaido/20220518_obihiroandbanba.html より
北海道帯広市で主催される「ばんえい競馬」で使用される馬の総称です。世界に例を見ない独特なレースで、体重1トンを超える大型馬が騎手の乗ったそりを引き、障害と直線で構成されたコースを競います。
主にペルシュロン種、ブルトン種、ベルジャン・ドラフト種を混血して生産されています。
ペルシュロン種

フランス北西部ノルマンディー・ペルシュ地方原産の品種です。性格は温順で我慢強く力持ちで、大きくも優美な体型を持ちます。毛色は芦毛や青毛が多く、体高160~170cm、大きな馬は2mを超えるものもあります。
ばんえい競馬史上最高獲得賞金額を誇る名馬キンタローも、ペルシュロンの血を濃く受け継いでいます。
ブルトン種

https://www.minnano-jouba.com/blog/wp-content/uploads/%E3%83%96%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%B3.jpg より
フランス北西部ブルターニュ地方原産で、体高150~160cm、体重約800kg、毛色は栗毛や糟毛が多い品種です。ブルターニュ地方の在来馬にペルシュロンなどを掛け合わせており、頑丈で筋肉質な体、短い頸とがっしりとした胴回りが特徴です。
ベルジャン・ドラフト種

https://www.minnano-jouba.com/blog/wp-content/uploads/%E3%83%99%E3%83%AB%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%B3.jpg より
ブラバントとも呼ばれるベルギー・ブラバント地方原産の古い品種です。体高170cm前後、体重約900kgで、丸みのある体型は他の重種と比べてコンパクトに見えますが、世界で最も大きい馬(体高210cm)と最も重い馬(1451kg)の記録保持者はどちらもこの品種です。
重種馬の現代における活躍
岩手県遠野市では、山から伐り出した木材を機械に頼らず、馬と人が協力して麓まで引き下ろす技術「馬搬・地駄曳き」が継承されています。何メートルもある丸太を特製のソリに乗せ、不安定な山道から人馬が息を合わせて運ぶ高度な技です。
担い手の馬は主にペルシュロン種が活躍しています。遠野は古くから大型馬の産地として知られ、馬搬も盛んでしたが、農業の機械化で昭和後期から衰退しました。2010年に岩手県出身の岩間敬さんが「遠野馬搬振興会」を立ち上げ、継承の道が再び開かれました。
日本在来馬の種類と保存状況
日本在来馬(和種馬)とは、外来種とほとんど交雑することなく、日本固有の特徴を残した馬の総称です。起源は古く、新石器時代の遺跡から馬の骨や歯の化石が出土していますが、これらは絶滅したと考えられています。
現在の定説では、古墳時代に朝鮮半島から渡来した蒙古系の小型馬が、人の交易により日本各地に広がったとされています。明治以降、国の軍馬増強策により外来種との混血が進み、純粋な在来馬の多くが消滅しました。
現存する日本在来馬は8種類で、どの種も体高が小さくポニー種に分類されます。最盛期に比べ頭数が大幅に減少しており、各地の保存会によって種の維持・保存に努力が注がれています。
中型種(体高約130cm)
北海道和種(道産子)は北海道の厳しい気候に耐えられる頑丈な体を持ち、日本在来馬の約7割を占めます。北海道文化遺産に指定されています。
木曽馬は唯一の本州の在来種で、平安時代から江戸時代にかけて武士の馬として用いられました。時代絵巻や浮世絵に登場する馬のモデルは木曽馬といわれ、長野県天然記念物に指定されています。
御崎馬は宮崎県都井岬に生息し、古い品種によくみられる鰻線(背中の色の濃い線)と黒い足首が特徴です。斜面が多い岬に生息するため後躯が発達しており、ハーレムをつくって生活します。国天然記念物に指定されています。
小型種(体高約115cm)
野間馬は愛媛県今治市に生息し、温和で賢い性格を持ちます。江戸時代には農耕馬として用いられましたが一時は絶滅の危機に瀕し、現在は優しい性格を活かしてホースセラピーなどで活躍しています。今治市指定文化財です。
トカラ馬は在来馬で最も小さい品種で、暑さに強く、サトウキビ絞りや荷物の運搬に用いられました。鹿児島県トカラ列島に生息しています。
宮古馬は沖縄県宮古島に生息し、性格は穏やかで人懐っこく、粗食や重労働に耐えることができます。蹄が大きいため、粒の細かいサンゴ砂の宮古島での労働に適していました。琉球王朝では競馬行事に用いられた記録が残されており、沖縄県天然記念物に指定されています。
与那国馬は沖縄県与那国島に生息し、「ウブガイ」と呼ばれる独特な頭絡や、耳に切り込みを入れて馬を区別する「耳印」など独特な文化が育まれました。現在は乗馬としても利用されており、与那国町天然記念物に指定されています。
中間種(体高約120cm)
対州馬は長崎県対馬に生息し、対馬の急峻な地形にも対応できる頑丈な足腰を備えています。働き手として人々に大切に扱われ、西洋種との交雑化から意識的に守られました。対馬市天然記念物に指定されています。
絶滅した日本在来馬
中型~大型の在来馬もかつて生息していましたが、純血種は絶滅してしまいました。南部駒(岩手)、三春駒(福島)、甲斐駒(山梨)、三河馬(愛知)、能登馬(石川)、土佐馬(高知)、日向馬(宮崎)、薩摩馬(鹿児島)、ウシウマ(種子島)などがあります。
青森県下北に生息する「寒立馬」は、南部駒の系統である田名部馬(南部駒と外来種との交配による改良品種)とブルトン種との交配が行われたもので、厳密には在来馬ではありません。
まとめ
馬は人類との長い歴史の中で、用途や環境に応じて多様な品種に分化してきました。競走馬として速さを追求したサラブレッド、力強く働く重種馬、小さくても丈夫なポニー、そして日本固有の在来馬など、それぞれが独自の特徴と魅力を持っています。
現在では200種類以上の品種が存在し、競馬、乗馬、観光、セラピーなどさまざまな場面で活躍しています。日本在来馬は絶滅の危機に瀕している品種も多く、各地の保存会による懸命な努力が続けられています。
馬の品種ごとの特徴を知ることで、競馬場や乗馬クラブ、観光地で出会う馬たちへの理解が深まり、より豊かな馬との触れ合いが実現できるでしょう。それぞれの地域や歴史に馴染みながら人々と生活する馬たちを訪ねる旅も、新たな発見と感動をもたらしてくれるはずです。







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