乗馬クラブのレッスン中にインストラクターの言葉が理解できず戸惑った経験はないでしょうか。
「斜めに手前を変えて」「反巻き」「隅角」
乗馬の世界は、独特な用語や専門的な表現がたくさんあります。「馬に乗る」というシンプルな行為の裏には、馬とのコミュニケーションを円滑にし、安全かつ深く楽しむための知識が詰まっています。
この記事では、乗馬初心者の方が知っておきたい基本的な用語から、馬術競技や馬との関わりをより豊かにする専門用語まで、幅広く分かりやすく解説します。
用語を理解することで、インストラクターの指示がより明確に伝わり、馬との絆も一層深まるはずです。
【基本編】レッスンで頻繁に耳にする乗馬用語
乗馬を始めるにあたって、まず押さえておきたいのはレッスンで日常的に使われる基本的な用語です。これらを理解するだけで、レッスンの内容が格段に分かりやすくなるでしょう。
馬の歩法(歩き方)
馬の歩き方には、速さやリズムによっていくつかの種類があります。これらは「歩法(ほほう)」と呼ばれ、状況に応じて使い分けられます。

常歩(なみあし):Walk
馬の歩法の中で、最もゆっくりとした、穏やかな歩き方です。 右後肢、右前肢、左後肢、左前肢という順序で、常に2本または3本の肢が地面についている4拍子のリズムで進みます。馬への負担が最も少なく、1分間に約110メートル進むことができます。
速歩(はやあし):Trot
常歩よりも速い、リズミカルな歩き方です。対角線上の肢(右前肢と左後肢、または左前肢と右後肢)がほぼ同時に動く2ビートのリズムが特徴です。馬の背中では上下の大きな動きを感じ、1分間に約220メートル進むことができます。
軽速歩(けいはやあし):Posting trot
速歩の際に、騎手が馬の動きに合わせて座ったり立ったりを繰り返す騎乗方法です。これにより、馬の反動(反撞)を和らげ、騎乗者と馬双方の負担を軽減することができます。
駈歩(かけあし):Canter
馬の歩法の中で最も速く、躍動感あふれる動きです。左右どちらかの肢が先行する「手前(てまえ)」があり、左手前の場合、右後肢→左後肢と右前肢→左前肢という順で進む3ビートのリズムが特徴です。1分間に約340メートル進むことができ、馬の身体が大きく前後に揺れるため、騎乗者は衝撃を吸収する巧みなバランス感覚が求められます。
襲歩(しゅうほ):Gallop
馬が全速力で走る際に使う歩法で、すべての肢が一時的に空中に浮く「空間期」があるのが特徴です。競走馬はおよそ時速60kmの速度で走ると言われています。
騎乗者の合図と動作(扶助)
騎手が馬に意思を伝え、馬をコントロールするための手段を「扶助(ふじょ)」と呼びます。これらを適切に使うことで、馬との円滑なコミュニケーションが可能になります。

扶助(ふじょ)
騎手から馬への「意思伝達の手段」全般を指します。主に「主扶助」と「副扶助」に分けられます。
- 主扶助: 脚(きゃく)、拳(こぶし)、騎座(きざ)といった、騎乗者が直接馬に触れて行う基本的な合図です。
- 副扶助: 拍車(はくしゃ)や鞭(むち)、舌鼓(ぜっこ:舌を鳴らす音)など、主扶助を補助するために用いられる合図です。
騎座(きざ)
鞍(くら)と接する騎乗者の太ももからお尻の部分を指します。騎座は、停止や発進、減速、方向転換といった指示を馬に伝える上で、拳や脚と連携して非常に重要な役割を果たします。
拳(こぶし)
騎乗者が手綱を通して馬の口に伝える合図のことです。主に馬の減速や方向転換の指示に使われます。拳の位置は、馬の口元と騎手の肘を結んだ延長線上に保つことが理想とされ、脚や騎座と連動させることで、より正確な意思伝達が可能になります。
脚(きゃく)
騎乗者が馬に前進の合図を送るために、脚を馬の体側に当てる、あるいは軽く圧迫する扶助です。馬が反応しない場合は、徐々に圧迫を強めたり、軽打して指示を伝えます。馬が正しく反応したら、すぐに脚の圧迫を緩めて褒めることで、馬は脚の合図の意味を理解していきます。
愛撫(あいぶ)
馬が騎乗者の指示に正しく応えてくれた際に、馬の首などを軽く叩いて褒め、感謝の気持ちを伝える行為です。適切なタイミングで行うことで、馬との信頼関係を築く上で非常に効果的です。例えば、レッスン終了時や、馬が落ち着いて指示を聞いてくれた時などに優しく愛撫して労ってあげましょう。
馬場の構造
乗馬を行うための特別な場所や、その境界線を示す用語も基本として知っておくと良いでしょう。
埒(らち)
馬場の周囲を囲む柵のことです。馬が馬場から逸脱しないように、また騎乗者が安全に運動できるように設置されています。
蹄跡(ていせき)
馬場柵の内側に沿って描かれる、馬が運動する際の仮想の線です。馬場馬術では、この蹄跡に沿って正確な運動を行うことが求められます。
隅角(ぐうかく):Corner
馬場の四隅のことを指します。馬場馬術の演技では、これらの隅角を正確に通過したり、ここで方向転換を行ったりすることが重要になります。
【応用編】馬術競技や馬の理解を深める専門用語
基本用語をマスターしたら、さらに乗馬の世界を広げるための専門用語を学んでみましょう。馬術競技の種類や、馬の動き、身体に関する知識は、乗馬の奥深さをより一層感じさせてくれます。
馬術競技の種類
乗馬は単なるレジャーだけでなく、高度な技術と美しさを競うスポーツでもあります。オリンピックなどで目にする機会の多い馬術競技には、いくつかの種類があります。
馬場馬術(ばじょうばじゅつ):Dressage
長方形の競技アリーナ内で行われる馬術競技です。「馬のバレエ」とも呼ばれ、馬の正確で美しい動きや、騎乗者との調和を競います。規定された演技を正確に行う「規定演技」と、音楽に合わせて自由な構成で演技する「自由演技」があります。
障害馬術(しょうがいばじゅつ):Jumping
アリーナ内に設置された様々な高さや形状の障害物を、落下させたり、馬が拒否したりすることなく、決められた順番で正確かつ速く飛越する技術を競う競技です。減点の少ない方が勝利となります。
運動に関する用語
輪乗り(わのり)

馬場馬術の基本運動の一つで、馬場内に正確な円を描いて運動することです。直径は通常10m、15m、20mなどがあり、馬の柔軟性やバランスを養うために行われます
巻乗り(まきのり)
輪乗りよりも小さな円(通常10m以下)を描く運動です。馬の屈曲と集中力を高めるために行われます。
反巻き(はんまき):Half-volte
馬場の一方の長蹄跡から中央に向かって半円を描き、再び長蹄跡に戻る運動です。方向転換と馬の柔軟性を確認するために使われます。

斜めに手前を変え(ななめにたてをかえ)
馬場の隅角を通過した後、対角線上に馬場を横切り、反対側の長蹄跡に向かって手前を変える運動です。

3湾曲蛇乗り(さんわんきょくへびのり)
馬場の長蹄跡に沿って、3つの半円(湾曲)を連続して描く運動です。馬の左右の柔軟性と、騎手の扶助の正確さが試されます。

馬の動き・姿勢・技術に関する用語
馬の身体の使い方は非常に繊細で、それを指示する用語も多岐にわたります。
内方姿勢(ないほうしせい)
馬体をわずかに湾曲させ、馬の頭からお尻までが描く円(輪線)に沿うような姿勢をとらせることです。内方の脚を通常より前に出し、体重を内側にかけながら、外方の拳や脚で馬をコントロールして行います。

http://st-george-rc.net/kaiten2.html より
半減却(はんげんきゃく)
馬の推進力を一時的に後肢に留めさせ、騎乗者と馬双方の集中力を高めるための扶助です。これにより、次の運動への移行(発進、停止、歩法の切り替えなど)がスムーズになります。
歩度を伸ばす/つめる
「歩度を伸ばす」は、馬の歩幅やステップの長さを広げ、より速く、より大きく歩かせること。「歩度をつめる」は、その逆で、歩幅を縮め、よりゆったりと歩かせることです。リズムを一定に保ちながら行います。
斜め横歩(ななめよこあし)
側方運動の一つで、馬をわずかに内方へ曲げた姿勢で、斜め前方に進ませる運動です。
肩内(かたうち)
側方運動の一つで、馬は内方姿勢をとり、外方の前肢と内方の後肢が同じ軌道(蹄跡)上を進むようにします。
伸長(しんちょう)
騎手とのコンタクトを保ちながら、馬が項(うなじ)を伸ばし、歩幅を大きく広げてリラックスして歩いている状態です。
収縮(しゅうしゅく)
馬が後躯からの力強い推進力を受け、前駆が軽くなり、弾むような力強さを備えた状態です。
屈とう(くっとう)
馬の頸を弓なりに湾曲させたり、輪乗りなどの際に円に沿って全身を湾曲させたりした状態を指します。
部班(ぶはん)
「部班」は、複数の馬が列になってグループで運動することです。
馬具・装備に関する用語
馬に乗るために必要な道具や、馬の手入れに使う道具にも専門用語があります。
鞍(くら):Saddle
馬の背中に乗せ、騎乗者が安定して座るための馬具です。騎乗スタイル(馬場、障害、総合など)によって形状が異なります。
ハミ:Bit
馬の口の中に噛ませる金属製の馬具で、手綱を通して騎乗者の意思を馬に伝える役割を担います。

https://www.equus.co.jp/column/678/より
手綱(たづな):Reins
ハミと騎乗者の拳を繋ぐ紐状の馬具で、馬の方向転換や停止の指示を伝えます。

https://www.somes.co.jp/blog/37124/?srsltid=AfmBOorvzwHpcGS7ffNY5u-VzQSC15o4m1z2vTFTjqke8EY7bUFrBP3m より
鞭(むち):Whip
脚や拳といった主扶助を補助する副扶助として使用されます。長さによって短鞭(たんべん)と長鞭(ちょうべん)があり、用途に応じて使い分けられます。
キュロット:Riding breeches
乗馬用に作られた伸縮性に富んだパンツです。革やシリコン素材の滑り止めが付いており、鞍との摩擦を軽減し、脚の安定性を高めます。
ヘルメット:Helmet
落馬などのアクシデントから頭部を保護するための安全装備です。
プロテクター:Protector
ボディプロテクターやエアバッグベストなど、騎乗中の安全性を高めるための防護具です。
馬の身体に関する用語
馬の身体の各部位の名称や、健康状態を知るための用語も理解しておくと、より馬への理解が深まります。
馬体名称(ばたいめいしょう)
馬の身体の各部位には、それぞれ固有の名称があります。例えば、首の後ろは「項(うなじ)」、馬の肩から前腕にかけては「前腕(ぜんわん)」、そして足首と蹄の間は「繋(つなぎ)」と呼ばれます。これらを知ることで、馬の状態をより正確に把握したり、獣医師や専門家とコミュニケーションを取る際に役立ちます。
毛色(けいろ)
馬の毛色は、その馬の個性を表す要素の一つです。サラブレッドには主に8種類の毛色があり、例えば「鹿毛(かげ)」は体が明るい茶色で長毛が黒色の馬を指し、全体の約半分を占めると言われています。他にも「栗毛(くりげ)」、「青毛(あおげ)」、「芦毛(あしげ)」など、多様な毛色が存在します。
乗馬用語を学ぶメリット
乗馬用語を理解することは、単に知識が増えるだけでなく、乗馬体験そのものをより豊かに、そして安全なものにしてくれます。
- レッスン理解の向上: インストラクターの指示が明確に理解できるようになり、的確な動作に繋がります。
- 安全な乗馬の実践: 馬や馬具に関する専門用語を知ることで、安全に配慮した行動が取れるようになります。
- 馬との信頼関係構築: 馬の生態や行動に関する知識は、馬への理解を深め、より良いコミュニケーションを築く助けとなります。
- 乗馬の楽しみ方の広がり: 馬術競技の用語などを知ることで、観戦する際にもより深く競技を楽しむことができるようになります。
まとめ
乗馬の世界は奥深く、学ぶべき用語も数多く存在します。しかし、今回ご紹介したような基本的な用語から少しずつ理解を深めていくことで、インストラクターの指示がよりクリアになり、馬とのコミュニケーションも格段にスムーズになるはずです。
焦る必要はありません。乗馬は、大人になってからでも十分に楽しめ、長く続けられる素晴らしいスポーツです。用語を学ぶ過程も楽しみながら、ご自身のペースで、あなただけの乗馬スタイルを築いていってください。安全で、より充実した乗馬ライフを応援しています!


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